熱処理

熱処理とは、金属や合金を所定の温度に加熱し、一定時間その温度に保った後、室温に冷却することで、素材の特性に影響を与える処理のことです。熱処理は、素材の延性、疲労強度、耐食性を高め、脆性を下げます。このような素材の改良により、医療機器が破損せずに集中的な応力に耐えられるようになり、また、医療機器の生体適合性も向上します。

全工程によって幾何学形状、寸法精度、および表面の品質が決定されます。STI の熱処理能力には、ステンレスやコバルトクロムのような硬性金属合金の焼きなましや、 主にニチノールなどの形状記憶合金の形状固定が含まれます。

形状固定

形状固定は、特にニチノール (ニッケルチタン) などの形状記憶合金の変態および機械的特性を設定します。レーザー加工した NiTi 部品は特殊ジグまたはマンドレルに載せ、加熱炉に入れて熱処理を行います。これが形状を固定します。STI は製品の厳密な仕様に沿って、これらのマンドレルや特殊ジグを設計・製造しています。

ニチノールは優れた生体適合性、形状記憶特性、超弾性を併せ持つことから、ステント腹腔鏡および関節鏡下の手術器具、吻合器、ガイドワイヤー、塞栓用コイルなどの幅広い医療機器に最適な素材となっています。

超弾性ニチノール製ステントのクラッシュおよびキンク回復の実演

柔軟な記憶 - ニチノール製ステント

たとえば自己拡張型ステントは、超弾性ニチノールが示す応力-ひずみ行動 (応力ヒステリシス) を用いて、目標脈管の壁に持続的な外向きの力を加え、外形の変形に抵抗しつつ脈管を開いたままに保ちます (クラッシュおよびキンク回復)。

STI は各製品に求められる具体的な機械的特性に応じて製品毎に形状固定工程を最適化します。形状固定手順では、複数の熱処理工程が連続して実行されます。工程数と正確な加熱・冷却のプロファイルは、本来 (切断時) の寸法、部品の (仕様に基づく) 最終寸法、および求められる3D形状により異なります。最終段階で部品の最終形状が固定されます。

STI は最先端の装置を用いて、制御された加熱と冷却の工程 (≤700℃) により、NiTi の特異的熱サイクルをオーステナイト (AsAf 温度) からマルテンサイト (MsMf 温度) まで誘導します。STI は公差が小さく、結果の再現性の高い、好ましい Af 温度と RF 値に到達するまで、全工程を調整します。

形状記憶 (熱弾性変態)

形状記憶 - ニチノール製スプリングの熱弾性変態

形状記憶 - ニチノール製スプリング

右の動画は形状記憶合金が過熱・冷却で形を変える様子を示しています。まず、ニチノール製スプリングを室温で卓上に置きます。変態温度とスプリングの機械的特性は、事前に形状固定プロセスで設定されています。

スプリングをその自己拡張性または超弾性 (弾性記憶) を超えて引き伸ばすと、塑性変形が起こります。スプリングを熱湯に入れるとその温度がAf 温度まで上昇し、熱変態が起こって、スプリングは元の形状 (熱記憶) に戻ります。


径方向力 (RF) と OD 回復試験

ニチノール製ステントのRF試験結果を示すグラフ

RF / OD 回復 - ニチノール製ステント

ニチノール製ステントで行われる RF / OD 回復試験は、生産されたステントの超弾性特性がお客様の定めた仕様を着実に満たすことを実証します。

脈管の壁に穏やかな外向きの力をかける目的で、自己拡張型ステントは目標脈管の直径よりも大きく作られます。超弾性または自己拡張型ステントは体温で使われるため、その変態温度は体温未満 (Af < 37℃)でなければならず、一般に30℃程度に設定されます。室温またはそれ以下では、ニチノール製ステントは元の直径の7分の1にまで捲縮するため、狭い送達システムにも対応できます。

具体的な例を使って説明しましょう。8~10mm の胆管用に設計されたニチノール製ステントを25℃で試験するなら、この胆管ステントの圧縮径は2mm、拡張径は10mm です。上の線は捲縮中の径方向力測定値、下の線は OD 回復中の径方向力測定値をグラフにしたものです。生産性の観点から最も重要なデータは、捲縮目標径到達時と完全拡張時に測定するエンドポイントに関するものです。

焼きなまし

焼きなまし(アニーリング)は、結晶構造が低温と高温で異なる金属の素材特性を変える熱処理プロセスです。焼きなましは金属を軟化させ、疲労強度を高め、レーザー加工段階で起こった内部応力を取り除きます。温度と時間が特定の熱サイクルを決定します。サイクルではまず加熱速度を制御しながら金属を焼きなまし温度に到達させ、一定時間その温度を保持し、求められる特性に応じて冷却速度を調整します。

アニーリングの前後に撮影した金属製ドッグボーンの SEM 顕微鏡写真

焼きなまし前後の結晶粒

素材の純度と結晶粒径は素材の物理特性に影響します。元のインゴットの質が素材の純度を決定しますが、結晶粒径は均一で細かい結晶粒を目標とする焼きなまし工程に左右されます。

結晶粒の均一な構成と分布は、結晶粒の細かさと相まって素材の破断伸張率、張力、疲労強度、耐食性、表面の滑らかさを向上します。これらの物理特性がストラットの小型化、壁の薄化、表面の品質向上を可能とします。

STI は焼きなましを利用してステンレス (316LVM)、チタンおよびコバルトクロム合金 (L605/MP35N) などの金属の機械的特性を向上しています。焼きなましは制御された加熱・冷却温度 (≤ 1,250℃) で実施しています。特定の焼きなまし・サイクルを実行する上での具体的なパラメータは、対象とする素材と意図する用途によって決まります。

STI は3つの加熱炉システムを使用しており、インプラント生産に一般的に使われる金属合金のそれぞれについて、具体的な熱処理プロファイルを開発しました。最適な結果を得るために、STI は張力と破断伸張率の自社測定と、テクニオン大学治金部による結晶粒径の測定を基に、各製品の焼きなまし・プロファイルを微調整しています。